白石一郎著「海のサムライたち」
    (文春文庫)の前書きより

 日本は四面を海に囲まれた島国でありながら、日本国民の海への関
心はきわめて薄い。
 これは環境に適応するはずの人間としてはおかしなことと言えよう。
  本来、人々は海を眺めれば、遙か水平線の彼方に何があるだろうと
空想し、その彼方からやって来る船や人物に大きな興味を寄せるはず
だ。
 15世紀にはじまった大航海時代のヨーロッパ人達がその好例だった。
  日本人も古代、中世、室町時代や戦国期まではヨーロッパ人と同じ
ような海への好奇心と冒険心をゆたかに持っていたと思える。しかし
徳川家によって天下が統一され、安定した国家が生まれて間もなく幕府による鎖国政策
が採用され、日本人の海外渡航は禁止され、渡海してくる他国の船もオランダと中国、朝鮮
などに限定してしまった。
 法令を破って他国へ渡海したものは帰ってくれば死罪、はるばると訪問してきた外国人に
対して自由な国内居住を許さないというのでは折角の海洋国家でありながら、日本
人が海への関心を失い、同時に国際感覚を摩滅させてしまったのは当然であろう。二百数十
年に及んだ鎖国政策は幕末維新に至るまで破綻することなく引き継がれ、日本人の海への無
関心を一種の国民性として定着させてしまった。
 これは現代の日本人にもまだ大きな影響を及ぼしていると私などは考えている。
 世界の輸出入大国と呼ばれながら輸出され輸入される物品の99.8%が船舶によるものである
ことを知っている日本人が果たしてどのくらいいるだろうか。
 自動車も石油もまぐろも大部分が船舶の運送に頼っているのだ。(後略)

 … と続く白石さんの文章は心地よい。
 さて、白石さんは「海狼伝」で直木賞を、「戦鬼たちの海」で柴田錬三郎賞を、「怒濤の
ごとく」で吉川英治賞を受賞している。歴史物が多いが、楽しい創作物も多々ある。
 上述した白石さんの海に対する思いが滲み出してくるように、殆どの作品は海にちなんだ
物である。ぜひ海好きの皆様も彼の作品を愛読頂き、その底を流れる「海とそこに生きる人」
を好きになって欲しい。また海の上でそんな話題が交わせたらヨットライフも充実するもの
と期待している。
 白石さんの著書(概略)を次に記したい。
主な著作
[編集] 長編
天翔ける女、サムライの海、海狼伝、海王伝、戦鬼たちの海「 織田水軍の将・九鬼嘉隆」、
風雲児、怒濤のごとく、航海者「三浦按針の生涯」、南海放浪記、火炎城、鷹ノ羽の城、
銭の城、びいどろの城、海将、異人館、黒い炎の戦士、鳴門血風記、海の夜明け「日本海
軍前史」 
[編集] 短編集
幻島記、島原大変、蒙古の槍「 孤島物語」、海峡の使者、江戸の海、切腹、玄界灘、 
秘剣、天上の露、足音が聞えてきた、幽霊船、弓は袋へ、孤島物語、戦国を斬る、風来坊、
夫婦刺客 
[編集] シリーズ(連作)
十時半睡事件帖、長崎ぎやまん波止場「若杉清吉捕物控」、投げ銛千吉廻船帖、 
横浜異人街事件帖 
[編集] エッセイ
水軍の城、戦国武将伝「リーダー達の戦略と決断」、海のサムライたち、海よ島よ「歴史
紀行」、乱世を切る「歴史エッセイ」、蒙古襲来「海から見た歴史」